ファイトケミカルとは?
フィトケミカル(phytochemical)とは植物中に存在する天然の化学物質で、生命活動に必須の栄養素ではありませんが、健康に良いと考えられる植物由来の化合物の総称です。
もともとファイトケミカルは、動くことのできない植物が紫外線や有害物質、害虫などの外敵などから自身を守るために作り出す物質であり、野菜や果物だけでなく、穀類・キノコ類などの植物に、主に植物の色素や香り、苦味成分として含まれており、自然界には全部で数千種類も存在するとも言われています。
ファイトケミカルという言葉は聞きなれないかもしれませんが、ポリフェノールやカロテノイド(カロチノイド)という言葉はご存じではありませんか?
ポリフェノールやカロテノイドもファイトケミカルの1種です。
ですが、ファイトケミカルはという言葉は非常に広く、生命維持に欠かせない5大栄養素(糖質、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラル)+第6の栄養素と呼ばれている食物繊維以外のものが基本的にファイトケミカルといったイメージになります。
ファイトケミカルは大きく下記の4つに分類して考えてもらえてばと思います。
野菜・果物の食品例
ファイトケミカルを食品から摂取する際に、最も判りやすいのが7色(赤、橙、黄、緑、紫、白、黒)の色素成分でしょう。
色別 | 栄養素例 | 食品例 |
赤 | リコピン | トマト、スイカ |
橙 | β-カロチン | にんじん、カボチャ |
黄 | ルテイン | とうもろこし、ブロッコリー |
緑 | クロロフィル | ホウレン草、ピーマン |
紫 | アントシアニン | ブルーベリー、葡萄 |
白 | イソチオシアネート | 大根、ワサビ |
黒 | カテキン | 緑茶、 ウーロン茶、紅茶 |
緑黄色野菜、淡色野菜など副菜は出来るだけ複数の食品を食べる栄養習慣は、ファイトケミカルをバランス良く摂取する上でも素晴らしい習慣だと思われます。
ポリフェノール類の種類
ポリフェノールとは、数あるファイトケミカルの中でも分子内に複数のフェノール性ヒドロキシ基を持つ植物成分の総称です。
一説では、ポリフェノール類とカロテノイド類の違いを判りやすく、ポリフェノールは植物に含まれる色素成分で水溶性を持ち、カロテノイドは動植物に含まれる色素成分で脂溶性を持つといった情報もありますが、ポリフェノールはさらに色素成分であるフラボノイド系とそれ以外の成分であるフェノール酸系に分類されます。
また、レスベラトロールについては脂溶性と考えられており、私自身も原材料調査の際にレスベラトロールは脂溶性として認識しています。
フラボノイド系
フラボノイドは光合成によって生成される色素成分で殆どの植物に含まれており、ポリフェノールの約90%がフラボノイドに属しています。
アントシアニン
アントシアニンはブルーベリーやビルベリー、ナスなどに含まれる青紫色の天然色素で、紫や赤紫色なども知られています。
アントシアニンは植物が紫外線から自らを守るために作り出される成分で、北欧産野生種のビルベリーには、アントシアニンが豊富に多く含まれていることで知られています。
アントシアニンにはロドプシンの再合成を促進する働きがあり、視覚機能を改善する効果があることが明らかになっていますので、目を酷使する現代社会人には大切な成分です。
レスベラトロール
サプリメントだけでなく化粧品にも配合され美容成分として高い注目を集めているレスベラトロールは、ブドウの皮や落花生の薄皮に含まれる青紫色の天然色素です。
多く含む食品としてサンタベリーが挙げられますが、北欧の過酷な環境で育つサンタベリーは、ブドウなどと比較してもより多くのレスベラトロールを含むことが判明しています。
また、ブドウが原料である赤ワインにもレスベラトロールが含まれますが、アルコールの摂取量には注意して下さい。
カテキン
普段から何気なく飲んでいる緑茶の苦味・渋味成分の正体がカテキンです。
カテキンはお茶に含まれていますので「茶カテキン」と呼ばれることもあり、抗菌・殺菌作用を持つことが知られています。
また、カテキンには体脂肪を燃焼させる効果が確認されていて、肥満やメタボリックシンドロームの予防や改善にも期待されています。
ルチン
ルチンは蕎麦(そば)や柑橘系の果物に含まれるポリフェノールの1種で、ビタミン様物質やビタミンPとも呼ばれています。
「そばを食べていると血管が強くなる」と言われていますが、これはルチンには弾力性のある血管を作り血液の流れをスムーズにするためです。
また、動脈硬化や脳卒中の予防に効果があるという研究報告があります。
フェノール酸系(非フラボノイド系)
フェノール酸は色素以外でできたポリフェノール類です。
つまり、ポリフェノール類には色素成分以外にも存在しますので、ポリフェノールとカロテノイドの違いは構造上で判別する必要があるのでしょう。
フェノール酸系ポリフェノールには、コーヒー豆に含まれる「クロロゲン酸」、ゴマに含まれる「リグナン」、ウコン(ターメリック)に含まれる「クルクミン」などがあります。
カロテノイド類の種類
一般的にカロテノイドには8個のイソプレン単位が結合して構成された化学式を基本骨格を持ち、テルペノイドの1種でもあり、テトラテルペンに分類されるファイトケミカルです。
β-カロチン(β-カロテン)
β-カロチンは植物や動物に存在する色素の1つで、私たちの体内では必要に応じてレチノール(ビタミンA)に変換されるため、”プロビタミンA”とも呼ばれています。
ビタミンAは脂溶性で体内に残留しやすいので、過剰症によるリスクがありますが、β-カロチンにはその心配がありませんので、妊娠中の方などにお勧めです。
強力な抗酸化作用+ビタミンAの効果を持つ代表的なカロテノイドです。
リコピン
リコピンはトマトやスイカに多く含まれている赤色の天然色素です。
リコピンを最も多く含んでいる食品がトマトであること既に知られており、その含有量はトマトの熟成度合いによって大きく異なるといわれています。
美白やダイエットに注目が集まっていますが、私自身は生活習慣病を予防するアディポネクチン(脂肪細胞から分泌されるホルモンの1種)を増加させる作用に期待しています。
アスタキサンチン
サケやイクラ、カニなどを赤橙色に彩る天然色素で強力な抗酸化作用を持っています。
脳や目にある「血液脳関門」「血液網膜関門」を通過することができる希少な抗酸化成分ですので、美容系だけでなく、目や脳のケアにも効果が期待されています。
特に脳内では絶えず大量の活性酸素が発生していると考えらており、脳疾患(脳梗塞、脳出血など)には活性酸素が深く関与しているとされていますので、脳内で抗酸化作用を発揮できるアスタキサンチンの存在は今後も重要視されると思われます。
ルテイン
ルテインは緑黄色野菜などに多く含まれる黄色の天然色素で、体内では特に目の「水晶体」と「黄斑部」という部分に多く存在し、目の機能を守ってくれています。
近年ではスマホやパソコンのブルーライトから目を守るフィルターとして働き「天然のサングラス」とも呼ばれ着目されています。
アイケア成分として人気の2大成分としてルテインとともにアントシアニンがありますが、両者の目に対する働きは異なるもので、同時に摂取することで相乗効果に期待されています。
硫黄化合物の種類
硫黄化合物とはイオウを含む化合物のことで、含硫化合物と呼ばれることもあります。
ニンニクやネギ、玉ねぎなどの刺激のある香り成分の総称で、主にユリ科やアブラナ科の植物に含有されており、抗菌・抗酸化作用を持つことが知られています。
アリシン
アリシンはニンニクやネギ、ニラなど香りの強い野菜に多く含まれている成分で、疲労回復やスタミナを向上させる働きがあります。
アリシンは食品を加工(切る・潰す・加熱調理)することによって、生の状態に含まれるアリインという物質がアリナーゼという酵素によって分解され生成されます。
イソチオシアネート
イソチオシアネートは大根やワサビ、白菜や小松菜などのアブラナ科の野菜に含まれる辛味成分であり、大根の辛味やワサビのツンとくる香りの元になっている成分です。
抗酸化作用はもちろん解毒酵素の生成を活性化させる働きに注目されています。
スルフォラファン
イソチオシアネートの1種でアブラナ科野菜の中でも、特にブロッコリーの新芽の部分であるブロッコリースプラウトに豊富に含まれて成分です。
解毒酵素の生成を活性化させるだけでなくアセトアルデヒドの代謝を促進する働きもあり、肝臓をサポートする重要な栄養素とされています。
また、胃炎や胃潰瘍の大きな要因とされているピロリ菌への抗菌作用も報告されています。
その他のファイトケミカル
ファイトケミカルの種類はもっと多いのですが、こちらでは上記に分類されない、よく知られているであろう成分を紹介します。
クロロフィル(葉緑素)
クロロフィルは植物や藻類などに含まれる緑色の天然色素で、細胞内の葉緑体に存在して光と水と空気中の二酸化炭素から有機物を合成する光合成に不可欠な成分です。
葉緑体、光合成、小学校の理科の授業で習った記憶がありますよね?
植物の葉が緑色に見えるのはクロロフィルを豊富に含んでいるためで、多く含まれる食品には青菜や緑黄色野菜、海藻などがあります。
これらの植物は太陽光に当たるほど葉緑素が増えて色が濃くなり、緑の色が濃くるなるほどクロロフィルが多く含まれているということになります。
クロロフィルには優れた抗酸化作用のほかに、老廃物を吸着して体外に排出するデトックス効果にも期待されています。
ギンコライド
ギンコライドは自然界の中でイチョウ葉のみに含まれる香り成分です。
ギンコライドを含むイチョウ葉エキスは、イチョウ葉から抽出されたエキスで、ドイツやフランスなどのヨーロッパでは医薬品として扱われています。
ギンコライドには強力な抗酸化作用だけでなく、PAFというアレルギー物質を抑制する働きもありますので、花粉症などのアレルギー症状の予防にも効果が期待されています。
ナットウキナーゼ
ナットウキナーゼとは納豆のネバネバ成分である納豆菌が作り出す成分で、他の大豆食品などには含まれない納豆独特のものです。
ナットウキナーゼには血栓を溶かしやすくする働きがありますので血液がドロドロになりやすい現代人には大切な栄養素ですが、ワーファリンなどの医薬品との併用には十分な注意が必要になります。